キャプテンストライダム 『ブッコロリー』再発記念 全曲解説インタビュー

うだるような猛暑が続く中、この暑さを吹き飛ばすのは、プールにカレーにキャプテンストライダム!ということで、この度めでたく彼らのファーストアルバム『ブッコロリー』が再発されました。そこで、風待レコードのホームページ「風待茶房」との合同企画として、キャプテンストライダムにロングインタビューを敢行いたしました!
デビューまでの道のりや『ブッコロリー』レコーディング中の様子は、「風待茶房」でのインタビューで読んでいただくとして、ここではアルバムの全曲紹介をご覧いただきます。彼らの若さの疾走とタケノコのごとき成長ぶりがぎゅっと濃縮された、ロックアルバムの名作『ブッコロリー』を、10倍楽しめる公式読本としてお楽しみください!

インタビュー・構成 水島己


左から、菊住守代司(Dr) 永友聖也(Vo&G) 梅田啓介(B)

「マウンテン・ア・ゴーゴー」
――キャプテンストライダムのファーストアルバム『ブッコロリー』について、ざっくばらんにお話しいただきたいと思います。1曲目はファーストシングルでもある「マウンテン・ア・ゴーゴー」なんですけど、この曲はすでにライブのメインレパートリーみたいな存在だったんですか?
永友 そうですね。
菊住 『ブッコロリー』の中だと一番古い曲ですね。
永友 一番古いし、自主制作盤でメインの曲になったのも、この曲ですね。風待レコードと出会うきっかけの曲でもあります。
――どういうきっかけだったんですか?
永友 『ノーテンフラワー』っていう自主制作盤を「風待オーディション」に送ったんです。『ノーテンフラワー』の1曲目がまさに「マウンテン・ア・ゴーゴー」ですね。
菊住 2曲目は「舟」(キャプテンストライダム初期の定番曲。シングル「流星オールナイト」にライブバージョンが収録されている)が入ってたんですよね。
永友 「マウンテン・ア・ゴーゴー」は、ちょうど(菊住)モリヨシがこのバンドに加入する前後で完成した曲なんですよ。
――宇都宮の大学のサークル内で結成されたキャプテンストライダムの前身バンドからドラマーが抜けて、そこに菊住さんが入って現在のメンバー構成になったんですよね。
永友 そうですね。この曲はもともと原型があったんですけど、モリヨシが入って完成した曲です。
菊住 そうだ。たしか俺が入る前は、「浅草テクノポリス」ってタイトルだった気がする。
――ははは。すごい名前ですね。
梅田 そんな名前付けたこともあったね。サビが出来たのもモリヨシが入ってからだよね。
菊住 初めてその時「4つ打ち」って単語を聞いて。
永友 「4つ打ち」って言葉を、僕が当時初めて覚えたんで、使ってみたかったんです。「次の曲、『4つ打ち』なんだけど」みたいな感じで(笑)。
――ははは。
永友 キャプテンストライダムは最初、「この3人で何ができるか?」ってことも特に話し合わずに始めちゃったんですよね。「ポップなものがやりたいな」っていうのはあったんですけど、それを3人でやるって時に、「どういうバランスでやったらいいのか?」っていう迷いがあって。例えばコーラスも、最初はあんまり入れてなかったんですよ。それが「マウンテン・ア・ゴーゴー」ができた時に、リズムや歌の感じと、みんなでコーラスするっていう感じが、僕らのスタイルになるかもっていう手応えがすごいあったんです。
――その後のキャプテンストライダムの方向性を決める重要な曲なんですね。
永友 そうですね。
――歌詞が結構破天荒ですけど、どういうイメージだったんでしょう?
永友 これはもう、「ランランランスがホームラン」というフレーズが出てきちゃったんですよね(笑)。
梅田 それはしょうがないよね(笑)。
永友 本当は仮詞のつもりだったんですよ。自主制作盤で録音した時に、スタジオの外でこの仮詞を書いたんですけど、「いくらなんでもこれはないな……」って思ってた(笑)。「こんな歌詞じゃ怒られるかなぁ……」って思いながらも、結局どうしてもランスをかき消すことができなくて。モリヨシに「これどう?」って見せたら、「う〜ん……」みたいな答えで(笑)。わりと反応がしょっぱかったのを覚えてます。
菊住 僕も、「う〜ん」って言ったのをすごい覚えてますよ。
梅田 「う〜ん」って言うほど、実は読んでいたなかったりしてな(笑)。「山のように見える」ってところだけは、最初からずっとあったよね。
――「人のかけらが山のように見える」っていうのは、すごく特徴的なフレーズですね。
永友 まあ、ランスのくだりとか、その時は半信半疑なところもあったんですけど、極力意味を持たせたくないっていうところは強く意識してましたね。
――イメージの羅列ですね。
永友 そうですね。メッセージソングに対する反発みたいな。

 

「影の無い男」
――ちょっと幻想的というか、変わったテーマの歌詞ですが、これはどこから?
永友 萩尾望都さんの『ポーの一族』という作品を意識しました。「永遠に子供の姿のまま」っていうモチーフがすごく好きで。『ゲゲゲの鬼太郎』(水木しげる)とかもそうですけど、子供の姿のままでいる大人って、それは悲しいなぁっていう。それにうちの妹が「妖怪を見た」っていう話をミックスしました。
――え? 本当に妖怪を見たんですか?
永友 見たみたいですよ。大人になってから聞いたんですけど。妹が小学生の頃に、電信柱の電線の上に親子が三人座って、弁当を食べているっていうのを見たらしいんですよ。当時はすごく小さかったから、「電線は意外と丈夫で、親子三人くらいが乗っても大丈夫なんだな」と思って見てたらしいんですよ。
――不思議には思わなかったんですね。
永友 それを18〜9歳になってふと思い出したらしく、「そんなはずはない!」と気づいたらしいんですよね。僕がこの曲を作っていた頃に、ちょうどその話をされて。
――まさにこの曲のサビのモチーフになってますね。
永友 そうです。「電線の上に乗っかってメシを食うのさ」ってところですね。物の怪か何だか知らないですけど、人間じゃなさそうな人達が親子で、しかも弁当を食べているっていう絵は、なかなか力強くていいなと思いますね。「メシを食う」っていうのが生命力の象徴みたいな感じがしたんです。
――ほのぼのとした可笑しみもありますよね。
永友 そういう妖怪だか幽霊だかでもメシを食うんだなってのは、すごくイイ話じゃないかと思って。
――梅田さんと菊住さんの印象は?
梅田 実は個人的には、このアルバムのなかでフェイバリット・ソングなんですよ。まず、こういうリズムパターンが好きなんです。それに曲自体の印象が、太いんですよね。サビとか歌詞の内容だとか、いろいろポップでキャッチーな面もあるけど、なんかこう……「音としては太い」みたいな。アレンジ的にも演奏的にもバランスの良い曲だと思ってて。
――たしかにそういうバランスがおもしろい曲ですね。
梅田 レコーディングでも、グルーヴの感じとかが結構良くできたなと思いました。
菊住 この曲はレコーディングをする少し前に出来たんですけど、「アルバムに入れるか入れないか」って話をしてた時には、「入れなくてもいいんじゃない?」って話が出てたんですよ。でも、レコーディングで化けたというか、うまく太い感じが出せたなっていう印象があります。

 

「肉屋の娘」
――この曲は思い出がたくさんありそうですけど。
永友 これはありますね。
――実在のお店がモデルになってるそうですね。
永友 宇都宮に『ミートショップこしみず』というお肉屋さんがあって、僕は常連だったんですよ。まず最初は「面白いギター屋がある」って、練習スタジオのロビーで、他のバンドの人に聞いていたんです。
――面白いギター屋?
永友 「肉屋の隣なんだよ」みたいな話を聞かされていて、行ってみたんですよ。そしたら肉屋はあるけど、ギター屋が見つからないんです。でもよくよく見たら、看板に「ミート&ギター」って書いてあって(笑)。
――ははは。
永友 「ココか!」と思って入ったら、初めて来たにもかかわらず、邦治さんっていうご主人が、1時間以上も昔の雑誌を見せてくれたり、レコードを持ってきてくれたり、珍しいギターを弾かせてくれたりして。
――ロック好きのご主人なんですね。
永友 ロック好きなんですよね〜。もともとは、URC(はっぴいえんども所属した日本のインディーズの原点的レーベル)の会員だったらしいんですよね。高田渡さんとか、五つの赤い風船とか、もちろんはっぴいえんどもあって……。ご自分でも、ビートルズとかベンチャーズとかのコピーバンドをやったそうです。最初は同じ敷地で肉屋とギター屋を分けていたらしいんですけど、ギター屋が徐々に侵食していって(笑)、混ざっちゃったらしいです。
――肉屋の部分は、普通に肉屋なんですか?
永友 はい。もう本当に町の肉屋。コロッケとお惣菜とお肉を売っている本格的な町の肉屋(笑)。
梅田 The 肉屋(笑)。
永友 惣菜もすごく美味しいし。
梅田 うまいな、あそこは。
永友 うまいよね。
梅田 あそこのハンバーグは日本一だと思ったもん。
永友 それで用もないのに遊びに行ってたんです。普通、楽器屋に長居すると、なんか買って帰らなきゃいけない雰囲気があるんですけど、そこだとコロッケを買えばいいから(笑)。晩ご飯の唐揚げを買って帰るという(笑)。宇都宮にいたころは、かなりお客を超えた付き合いをさせてもらってたんですよ。
菊住 そこで永友さんがギターを買ってきたことがあったんですよね。
永友 そうそう。
菊住 それまで見たこともないような。
梅田 「アライダイヤモンド」ってやつ。
永友 今の「アリアプロ」の前身らしいんですけど。
梅田 たしかヘッドかどこかにダイヤモンドのようなものがついてて(笑)。
永友 いわゆるビザール・ギターですね。
――それはまさに曲間の「Jラップ」の歌詞になっているんですね?
永友 そうです。ラップの部分で出てくる「おかずを買いに行ったんだけど、ギターを買って腹ペコだ」っていうくだりは、その時の経験というか……実話に近いですね。「唐揚げかコロッケでも買いに行こうかなぁ」と思って行ったんですけど、ギターを買って帰っちゃったんですよね。
――そのギターはまだ使ってるんですか?
永友 使ってはいないですけど、持ってますね。チューニングが悪いんです(笑)。
――お店の方には、永友さんがバンドをやっていることは話してたんですか?
永友 アルバムできた時に初めて「実はバンドをやってます」って言ったんです(笑)。そのときに初めて「実は『肉屋の娘』っていう曲を勝手に作っちゃったんですけど」って告白して。お店にはモモヨおばさんっていうおばちゃんがいるんですけど、「肉屋の娘」というのはそのおばちゃんに捧げるタイトルなんです。初めて聴いてもらった時に、すごい喜んでくれました。
梅田 初めてインストアライブしたのもそこだよね(笑)。
永友 そうそう。テレビ番組の企画でやらせてもらったんです。インストアだけどフルバンドでね。アンプとか繋いで(笑)。
――そんなに広いお店なんですか?
永友 いや、全然広くないんだけど。
梅田 実質のインストアはドラムセットだけで……。
永友 ギターとベースは車道にはみ出してました(笑)。目の前をガンガン車が通るんですよ。
――カッコいいですね!
永友 道を挟んだ向こう側でみんな見てるんですよ。
菊住 よくやったよね。
梅田 あれは面白かったっすね。

 

「あと半分」
永友 これは、練習スタジオに向かう車の中で考えて、その日の練習で完成させたっていう曲ですね。出来るまでが早かったですよ。
――どういうイメージだったんですか?
永友 これはもう、単純に「はじめてのチュウ」(アニメ『キテレツ大百科』のテーマソング)みたいな曲がやりたかったのと(笑)、夏休みが半分過ぎた、ちょうど8月半ばくらいの気だるさを歌にしたかったんですよね。
――ビーチボーイズ風のコーラスも夏ということで?
永友 そうですね。それから、Pearl JamとかNirvanaとかシアトルの人達のグランジロックがすごく好きで。シアトルって、特に何の不自由もなく、普通に生活できる街らしいんですよね。一番アメリカで白人の比率が多くて、犯罪とかも少なくて。そこの若者達は特に不自由がないんだけど、なんかこう、いつもどんより曇った街で、鬱屈して暮らしている中からグランジが生まれたらしいんですよ。それで、「僕らなりのグランジって何だろう?」と考えた時に、それは「夏休みがあと半分で終わる」っていう、鬱屈した気だるさに近いんじゃないかと思って。
梅田 退屈なんですよね、もう。
永友 だからサウンドはともかく、これは僕らなりのグランジの解釈ですね(笑)。「宇都宮は日本のシアトルじゃないか?」っていう(笑)。
梅田 アレンジはいろんな変遷をたどってきたよね。最初、コード進行とかメロディの感じから、オールディーズ風な演奏でやろうとしたんだけど、、(菊住)モリヨシが斬新なリズムを導入して。ギターでゆっくりブラッシングするみたいな「ズンズガジャンジャー」というリズムを、ドラムのキックとスネアで再現してて。
菊住 ああ、やってましたね。
梅田 「何だそれは!? そういう解釈があるのか?」みたいな(笑)。
菊住 ちょっとラウドロックっぽい解釈だったんですよね。
永友 ははは。ある意味グランジ寄りだな(笑)。
菊住 この曲のレコーディングの時に、初めてレコーディングならではっていうことをやったんですよね。最初、アコギ一本で始まって、パーカッションを上に重ねてっていう。それまで僕の中では、「バンドで一発で合わせるのがすべてだ」みたいなイメージがあったので。
梅田 そうだね。そういう面白みみたいなのがあって、結構盛り上がったんだよね。「あと半分」のレコーディングは、結構遊びがいっぱい入ってた。
永友 テンション上がってましたね。
梅田 コーラスを入れる時も盛り上がったよな。みんなでワイワイやって。
菊住 おかげでライブで演奏するのが結構難しくなちゃったんだよね(笑)。

 

「ヤルキレス」
永友 これ、本当は人にあげようと思っていた曲なんですよ。サークルの後輩の女の子三人組がやっていた、「エキカチッソ」ってバンドがあって。
――キャプテンストライダムの妹分みたいな感じですかね。
永友 西城秀樹の妹みたいな感じですね(笑)。なかなか良いバンドだったから、彼女らに一曲、自分の趣味で歌わせたいと思って(笑)。
――ははは。「プロデュースさせろ!」と。
永友 プロデュースというと聞こえはいいんですけど。個人的には、女の子バンドが一人称を「僕」で歌っているのがすごく好きなんで、そういう曲を歌わせて影でほくそ笑もうと思ったんですよ。
梅田 変態だ……(笑)。
――ははは。
永友 とりあえずできたんで、まず自分で歌ってみようと思って、キャプテンストライダムで合わせたら、なかなか手応えがあったんで、「やっぱりあげるの止めた!」ってことになって(笑)。自分達のレパートリーにしちゃったんですよ。
梅田 これをあげちゃうのはもったいないよ。
永友 個人的にはすごく聴きたかったんだけどね……。
――ノイジーなギターのリフが印象的ですよね。
菊住 最初のテーマが、「泣きの爆音」でした。
永友 Dinosaur Jr.とか、そういう感じ。
菊住 ベースもベコベコに歪ませているんですよね。グジャ〜ってなってる。
永友 でも最初にバンドでアレンジしてる時は、なかなかイメージが伝わらなくて苦労したんですよね。
――もともとはエキカチッソがやる曲だったから(笑)。
永友 「エキカチッソがやるんだったら一発でいくのになぁ……」と思ってた。特にドラムがなかなか決まらなくて……。それで、ある日(菊住)モリヨシが、「わかりました!」って言ってきたんですよ。「これ、あれですよ! CHAGE&ASKAの『YAH YAH YAH』のリズムと同じなんですよ!」って(笑)。
――ははは。
永友 それで「こいつとやっていけるんだろうか……」と悩みましたね(笑)。すごく将来に不安を感じた瞬間でしたけど。
(一同笑)
菊住 結局、そのリズムパターンもなかったことになって(笑)。
――今でもライブでよくやる曲ですよね。
梅田 わりとやりますね。
永友 これはライブの時のヘソみたいな位置づけですね。

 

 

「犬の生活」
――この曲は、ある意味すごくキャプテストライダムらしい気がします。「おばけナイターのテーマ」なんかにも通じるような、村祭り的な感じがして。
永友 この曲は泥酔してるときに出来たんですよ。酔っぱらって作ったなんていうのは、この曲だけなんですけど。朝起きたらラジカセにこの曲が丸々録ってあって……。
――え? 本当ですか!?
永友 だから、自分で作った気がしないんですよね。なんかこう……「曲を作ってたなぁ」っていうのは漠然と覚えていたんです。だから「どうせダメな曲だろう……」と思って、朝起きて聴いてみたらほぼ完成してたんですよ。「靴屋の小人」みたいな感じです(笑)。
――小人が知らない間に残していったみたいな。
永友 歌詞なんかは、気持ちが解放されて、深層心理が出てる気がするんです。そこがちょっとむず痒いですね……。
梅田 永友さんが歌を持ってきた時には、構成も歌詞も最初から出来てましたね。3人で合わせた次のライブではもうやっていたような気がする。
永友 速かったよね。こういう曲が、一番作るのが得意ではあるんですね。GSっぽくて、ちょっと妖怪っぽいリズムの。気を抜くとこういう曲ばっかりになっちゃうけど(笑)。
――気づくと妖怪が出てきちゃう(笑)。
永友 でも、『ブッコロリー』の曲の中では一番好きな曲ですね。
――菊住さんの印象は?
菊住 この曲は「スパッとできたな」っていう印象が強いですね。もう、永友さんの中でできていたから、一回の練習でできあがってしまったんですね。
梅田 アレンジとか間奏とかの感じもスッとああいう形になった気がする。

 

「森はサンデー」
――これは前の曲の「犬の生活」とは一転して、爽やかな曲ですね。
永友 ええ。どこまで爽やかになれるかに挑戦しました。でも、歌い方はすごい大変でしたね。
梅田 「(声を)張らない」歌い方ですね。
永友 そうそう。
菊住 曲的にはすごく初期からあったんです。これも僕が入った後、「マウンテン・ア・ゴーゴー」の次くらいにできた曲ですね。
永友 これ、歌詞は『ゲゲゲの鬼太郎』の「さら小僧」ってエピソードから取ったんです(笑)。
――爽やかさとは裏腹に、バリバリ妖怪ものなんですね。
永友 あるサラリーマンが、偶然、橋の下で妖怪が歌っているのを聴いてしまう話なんです。「これは売れそうだ!」ってことで、ザ・ビンボーズっていうGSバンドを結成してレコードを出して、大ヒットするんですよね。でも、妖怪は「自分達の歌を取られた!」っていうんで、曲を取り返しに来て、その人は連れ去られてしまうっていう話です。
――いい話ですねぇ。
永友 そのエピソードがすごく好きなんですよ。でも、さすがにさら小僧をこの曲に登場させるわけにもいかないので(笑)。森の中のカラスとかケモノ達は妖怪と近しい所にいるんで、「人間の知らない世界でもののけの歌があって、そういう宴が繰り広げられているんじゃないかな?」と妄想して、それがうらやましいなぁ、っていう歌ですね(笑)。
――でも曲の印象からは妖怪を微塵も感じさせないですね(笑)
永友 そうですね。さすがにさら小僧って感じはしないですよね(笑)。

 

「ブッコロリー」
永友 アルバムのタイトルにもなった曲ですね。
――歌詞が「才能無いから芽が出ない」の1フレーズだけ、というインパクトの強い曲ですが、これはどういうコンセプトで作ったんですか?
永友 パンクがやりたかったんですよね。もう、そのものズバリなんですけど(笑)。元々パンクがどうも苦手で……。パンク的な思想に馴染めなくて、音楽的にもちょっと苦手なんですよ。でも「僕らなりにパンクと戦うにはどうしたらいいんだろう?」と考えた結果がこの曲です(笑)。
――そもそも「ブッコロリー」ってどういう意味なんですか?
永友 パンク的に「ブッ殺す」とか言っちゃうのはポップじゃないなと思ったので、「ブッ殺りー(ブッコロリー)」って言ってしまった(笑)。
――ははは。
永友 「言葉ちょっと間違えてる」みたいな感じが、ちょうどパンクとの距離として、いい塩梅だったんですよね。
――でも「才能無いから芽が出ない」って、刺激的なフレーズですよね。
永友 これは、人を攻撃すると同時に自分を攻撃してるんですよね。宇都宮にいるときにライブハウスでこの曲をやると、楽屋で「あれは当てつけか?」みたいなことを、いろんな人に言われるんですよ(笑)。「あれは俺のことを言ってるのか?」とか。「いやいや、そんなつもりはないけどさ〜」って流してたんですけど。
――すごいなぁ。
永友 でも、言ってしまうからには自分にもそのまま跳ね返ってくるから、諸刃の剣なんですよね。

 

「サンドバッグの夜」
永友 この曲はアルバムのレコーディングに入った時には、まだなかったんですよね。全8曲で完結させようと思ってたんですよ。なかなかポップでバラエティに富んでて、いいアルバムになりそうだなぁ、とは思ってたんです。でも、なんかこう……アルバムの心臓部がまだ無いというか、まだ本当のことを言っていないような気がしたんです。純粋にストレートなラブソングみたいなものが無かったので。聴くとすごいポップで楽しいんだけど、それだけで終わっちゃうなぁ、っていう不安があったんですよね。
――そこでこういう曲を書こうと思ったんですね。
永友 「心に引っかかるものが最後にもうひとつほしい!」と思って書きました。そのとき、ちょうど(レーベルプロデューサーの)松本(隆)さんからも、「ラブソングを作りなさい」っていうお題をもらっていて。最後にレコーディングするのに、次につながるものを作って完成させたいっていう思いもあったんです。
――『ブッコロリー』の後にリリースしたシングル「流星オールナイト」に繋がっていく感じがありますね。
永友 そうですね。
――これまでのキャプテンストライダムとは一味違う曲だったと思うんですが、お2人はどういう印象でした?
梅田 う〜ん……「バラードだ!」って思った(笑)。
永友 バラードっていうか……。
菊住 ラブソングだね。自分は、3人の中で一番後輩だったし、それまでわりと引っ張られる形でバンドをやっていたんですね。それにそれまでの曲っていうのは、「いかに自分が楽しいか」みたいなことが重要だったんですよ。それが悪いとは全然思わないんですけど。でもこの時は、「曲のために自分がどうすべきか?」みたいなものを初めて真剣に考えた気がします。
――この曲で成長したっていう感じがあるんでしょうか?
菊住 そうですね。結構それまでは……あまり決意無きままにやってきた感じがあったんです。でも、この曲で決意が固まったというか、自分の中のモードが完全に切り替わりました。(アルバムのレコーディングの)最後になってなんですけどね(笑)。
梅田 こういうスローナンバーをやるのは、たしかに初めてだった。俺もそれまでは、適当にガーっていっぱい音を入れたりして自己満足なところもあったんだけど、この曲で初めて我慢して白玉(全音符)を弾いたりして。
――でもこの曲が出来たとき、アルバムが完成した感じが強かったんじゃないですか?
永友 それはありましたね。やっぱり最後、この曲が一番生々しいんですよね。
梅田 生々しいね。
永友 歌詞にも、「自分のここが嫌だな」っていうような部分が入っているんです。
――「僕はズルいんだよ」っていう歌詞が印象的ですけれど……。
永友 うん、そこですね。それを言うと、自分の実体験みたいな感じがしたんです。だから「なかなか生々しい歌になってきたなぁ」と思いました。ポップミュージックとしては、キレイなものが好きな方なので、これまであまりそういうものをやってこなかったんですよね。でも最後の最後にこの曲を録ることで、自己満足だったところから次に繋がった。そういう意味でもとても重要な曲ですね。

 

↑TOPへもどる